fc2ブログ

松田靖弘のブログ

仕事とする建築のことや大学で教えている緑のことなどをはじめ、自分の日常の些細なことまで含めて気が向くままに書いていきます。

連休前の中間検査2020

彦根20200424

先月末、連休が始まる直前に行ってきた滋賀の工事現場の写真。

まあこのウィルスの騒ぎで、気軽に現場へ行けないような雰囲気になってきているが、この日は確認申請の中間検査だった。写真は午後一番に予定された検査の直前で、目の前にある琵琶湖の水面や空の色も穏やかで落ち着いた感じだった。

それが、無事検査も終わり工事の打ち合わせをしていた午後3時過ぎごろだったろうか、激しい雨と同時にすごい風が吹き荒れてきて、本当にものすごい状態になった。このあたりの強風のことはかなり聞いていたものの、実際に自分がお目にかかるのは初めてで、びっくりさせられた。風雨の激しさもそうだが、それよりも、打合せの合間にいつのまにか空の色が変わってきたと思うと雨が降りだし、あれよあれよという間にあんな風な荒れ狂う状態にまでなってしまったというわけで、その変わりようの激しさにかなり驚いた次第だった。まあ夕方打合せを終えて敷地を出るころには嘘のように、またはじめの穏やかな状態に戻っていた。

さてこの建物は、事務所の木造では初めてとなる高気密高断熱型の住宅で、自分としてはそれなりにいろんな思いを込めたつもりのもの。工事は8月の竣工予定だが、そのころにはコロナも落ち着いた状態になっていますようにと、心から祈る次第です。

スポンサーサイト



2018年末 今年の仕事

住真田山EAST 2018-1
さあ、今年もいよいよ大詰め。恒例の年末の締めくくりを。
仕事では、以前の「住 真田山」に続くシリーズ第二作「住 真田山EAST」が夏の盆明けに竣工したことが一番大きい出来事だった。前のには、賃貸住宅のほかにオーナーのご自宅と不動産管理を業とするその会社(だるまや土地株式会社)の事務所も入っていたが、今回は全てが賃貸住戸。上の写真の露地を入っていくアプローチはよく似ているが、突き当たりに庭があった前作にたいし、今回は下の写真にある小さなラウンジのようなエレベーターホールを介して庭に接している。

置いてある家具はジョージ・ナカシマの有名なコノイドベンチと、その製作もした桜製作所デザインのテーブル。さすがに空間が引き締まり、高額にもかかわらず踏み切っていただけた施主には感謝の気持ちだ。実はジョージ・ナカシマ氏は、自分が社会に出て初めて勤めたレーモンド設計事務所の大先輩でもあり(もちろん直接の面識などないが)多少感慨深いものがあった。
住真田山EAST-4
施行してくれたまこと建設は、今や世界的な建築家となられた安藤忠雄氏の仕事を数多く手がけてきて、コンクリート打ち放しの建物をまかせれば日本一(もしかすると世界一?)と言ってもいい会社だが、今回も期待にたがわない仕事をしてくれた。ただ工程管理のまずさもあって、竣工前の最終局面で多少不手際があったもののそれは1階回りの仕上げのことで、コンクリートの素材自体はもちろん、全体的な施行についてもよい仕事をしてくれたと言ってよいと思う。

ここで打ち明け話を少しすると、まこと建設は、安藤忠雄氏の建物の評判もあってコンクリート打ち放しを数多く手がけているのでその職人たちもたくさんいる。でもやはり安藤さんの建物となると別格で、「安藤組?」とでも言うべき職人さんたちがいるようだ。前回は、最初からはっきりそうではないと聞いていて、まあ予算的にも厳しくそれで当然と思っていたが、今回は「安藤さんの手(型枠大工)が来てくれます」とはじめに聞いて、かえってこちらが緊張したのだった。確かに安藤さんからの発注が定期的に決まっているわけでもなく、その職人さんたちも安藤さん以外の建物を手がける機会もあって当然だが、聞いたときは多少面食らってしまった。

設計としてはあまり難しい仕事を要求はしていなかったものの、設計時点で「できれば・・・」と思っていたことも実現してもらえたし、何より現場の懇親会(飲み会)で同席して、断片的ではあるが苦労話しをいろいろ聞かせてもらったことはとても印象深い経験になった次第。最後に入口側の全体写真をあげておきます。ちなみに今日の全ての写真は、福澤昭嘉氏の撮影。

あと仕事で書いておくべきかと思うのは、かなり久しぶりに木造在来工法の住宅の設計を始めたこと。現在、省エネ義務化に向けて国交省がやっきになって講習会を開きまくっていて、ある程度自分の知識も改善してきていたつもりだが、具体的に現在の木造住宅のことを調べてみると、予想以上に変化(進化?)していることが分かってびっくりしてしまった。

まあ高気密高断熱の住まいというのは、建築家としてかなり前から、人に先駆けて手がけてきた自負はあるし、その利点については、省エネの観点以前に、感覚的に強く推奨したい思いを昔からもっているので、あらためて本格的に取り組んでみたいと考えている。そしてようやく年末ぎりぎりに仕上がった基本計画について、先日、施主には一応の了解をいただけたので、来年の展開を楽しみにしたいと思う。

さて仕事の話しだけで今年は長くなってしまった。今日はこの辺で。
住真田山EAST 2018-3

猪名川

先週の火曜日、兵庫県の猪名川に行ってきた報告を。
実は昨日書いた講談会より先で、書こうとは思っていたが、講談会の印象が強烈だったので、そちらを先に書くことにした次第。

静思館-1

行った目的は、猪名川霊園というところにできた建物の見学会。ただ午後1時半現地集合で、不便なところなので車で行くことにした。でもどうせ1日つぶれるならと、早めに出てどこか別のところも見学してみようと考えて探していると、別のルートだが一緒に参加したH君が、「静思館」という建物のことを見つけてくれて、そこへも行くことにしたのだった。

実は、市のWEBサイトの写真くらいしか見ていなかったので、行くまではてっきり古民家だと思っていた。場所は市役所の隣で、その駐車場に車を置いて裏口から入ったのだが、係りの人に移築ですかと聞くと違うとのこと。表に回って一度門の外へ出て、振り返っておもむろに門構えを見ると、門として見たことのないような、空間的スケールが並外れたものなのでびっくりした。

静思館-2

パンフレットや展示を見ると、昭和の初めにできた京都の高名な美術商のゲストハウスだったそうだ。氏が集められたコレクションとして展示で説明されていた中で、今は大阪中之島の東洋陶磁美術館にある国宝の「飛青磁 花生」はさすがに私も覚えていて、ウーンとうなってしまった。
(後記:これはどうやら私の誤解で、ほぼ同じようなものが今もスイスのバウアーコレクションにあるそうだからそちらが氏の収集品だろう。)

もう少し詳しいことは、ここにリンクしたパンフレットでご覧下さい。

静思館-3

確かに萱葺きの古民家然とした造りであっても、京都の数奇屋大工の手によるものだし、とにかくよく見るとギョッとするほどスケールがでかい。ケヤキの大黒柱は1尺2寸角ほどもあり、座敷の柱も4寸5分角。写真では分かりにくいが、大屋根は飛騨の合掌造りの家くらいのスケール感がある。構造も、萱葺き屋根で一般的なサス組みではなくて洋風トラスが入っているそうだ。

高架水槽による水洗便所まであってなかなか面白いし、保存状態もよくて、まあ一見の価値は十分ある建物だと思うから、もう少し宣伝されてもよいのではないかと思った次第。

さて肝心の猪名川霊園の礼拝堂・休憩棟について書く前に息が切れてしまった。

猪名川霊園-1

一番印象に残ったのはやはり礼拝堂の空間だ。とくにその庭がすばらしかった。

猪名川霊園-3

でも山野草の中庭は、造りはなかなか面白いと思ったが、あの場所ではあまりに弱すぎる印象で、もう少しやりようがなかったか。ただあたりの山に針葉樹の植林が見当たらなかったのが印象的で、広葉樹のやわらかい山肌がすばらしい背景になっていた。興味のある方は、ここにリンクしたWEBサイトや建築雑誌などでご覧下さい。

猪名川霊園-2

住真田山EAST 竣工引渡し

住真田山EAST180817

このところかかりきりになっていた「住真田山EAST」の建築工事がようやく完成し、この月曜日に引渡しだった。工務店はM建設というところで、決して大きくはないゼネコンだが、昔から安藤忠雄氏の作品を数多く手がけてきていて、「コンクリート打放し」となれば、現在の日本ではピカイチと言ってもいい評価を受けているすばらしい会社だ。

自分にとって仕事をしてもらうのは今回が三回目。でも今までが自分の期待をはるかに超えてすばらしかっただけに、今回の工事終盤には多少幻滅させられた。引渡しがすんだ翌日、営業の人には不満を表明し、取締役のA氏に伝えてもらうようお願いした。

まあ建設業界は、バブル破綻の深手からようやく回復し、東京オリンピック開催というビッグイベントを控えて、一部かもしれないが、かなりの上昇気流があって「いけいけどんどん」の雰囲気もある。M建設も東京支店を開設し、その気流にうまく乗って、業績と会社の規模を急拡大しつつあるところだ。

だからそれに合わせて人材も集めてきたが、やはり「急」というところで多少無理が出るのも仕方がないのかもしれない。でも、それならそれで会社上層部や管理部が必要なところはしっかりとフォローしていく体制を気迫を持って作っていかなければならないと思う。単に現場の所長まかせで逃げるのでは会社として批判されても仕方がないだろう。忙しいというのは言い訳にはならない。

今回は、社内検査はあったものの、1階はとても完成とは言い難い状態。問い詰めると再検査をやったと言うが、なんと月曜日の引渡しの2日前の土曜日。暗澹とした気持ちで私が3回目の検査をやった翌日だ。もはや不備にきちんと手を打てる時期ではなく、おざなりと言われても仕方がないだろう。これではまともなゼネコンの現場とは言えない。

安藤忠雄氏の仕事を最初に担当され、取締役で今年退職されたF氏の風韻が、私にとってM建設のやる仕事の印象の原点だ。その歴史を汚すことなく、これからも大事にしてほしいと営業のM氏には心からお願いした次第。

2017大晦日

昨日の続きを。
昨年末は、最後まで本当に仕事に追われて大変だったが、今年は穏やかな年末年始になりそうだ。まあ去年が異常だった。

さて仕事としている建築での話題を。春に見学に行った愛媛県は八幡浜の日土(ひつぢ)小学校と、夏に行った奈良の旧少年刑務所が群を抜いてすばらしかった。ともに古く、前者は私の生まれたころの建築だから築60年ほど。後者の刑務所はもっと古く、明治41年(1908年)竣工というから110年ほど前だ。

日土小学校は、ずっと以前から何となく知っていたものの、四国の瀬戸内海側というだけでどこにあるかもよく知らなかったが、いろいろ偶然が重なって場所も知り、思い切って出かけてきた。戦後の木造建築では最初の、国指定の重要文化財。何より近年大改修を受けた後も、小学校として使われ続けているのがすばらしい。だから普段は入れないが、年に3回見学会を催していてそれに行ってきたのだ。

建築は日本的洋風木造とでも言ったらいいだろうか。全体がペンキ塗り。当時はすでに、おそらく木造など古くさく、耐震防火の面から施設ではRCや鉄骨が主流になりつつあったと思うが、その時代に、ほぼ純木造で工夫を重ね、地元の大工と木材を使ってこれだけの規模の建築を作り上げたことは本当に見事だ。さらにディテールにまでこだわりが強く感じられ、各所でアイデアにあふれているところが一番すばらしかったと思う。

奈良のも重要文化財指定を受けた建物だが、刑務所として廃止されたのを受けて、新たな用途を募ってホテルへの改修が決まっている。それで最後の見学会と銘打ったものに応募したのだった。まあ以前から見たいとは思っていた建物だが、申し込んだ見学会ははずれであきらめていたら、人気が高かったのだろう、急遽申し込み不要の一般向けの見学会をするというので行ってきたのだ。

ただ天気は晴れでも夏の日盛りで、おまけに行ってみたら長蛇の行列。炎天下3時間汗だくになって待たされたが、並んだかいはあったと思えるような建築だった。これはおそらく建築的にはほぼ純洋風の建物。鉄骨と木造の混合で、構法はおそらくヨーロッパ建築の直輸入だろうか。まあ放射状の配置とか刑務所という作りの特殊性の面白さも大きかったが、やった建築家の息吹が生きていて工夫が縦横に感じられるのが何よりすばらしかったと思う。ちなみにその建築家はジャズピアニストの山下洋輔氏のお祖父さんだ。

長くなった。最後に音楽のことを少し。
9月に一枚のCDを買った。マーラーの交響曲第五番。バーンスタインがウィーンフィルハーモニーを振ったもの。なかなか面白くて時々聴いている。とくに第四楽章は絶品で、これを聴きながら書いてきた。

さて今年も残すところあと数時間。

来る年がきっとよき年でありますよう