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松田靖弘のブログ

仕事とする建築のことや大学で教えている緑のことなどをはじめ、自分の日常の些細なことまで含めて気が向くままに書いていきます。

建築行脚

角屋

先週末、ほぼ二年ぶりになるが、若い人たちと建築見学に行ってきた。まあ若いと言っても、自分が年をとるに連れ、みんなも同じだけ年を重ねるわけで、もはや上は中堅クラスだし、まぎれもなく若いと言えるのは自分のところのスタッフくらいだ。

記憶している限りでは、今回で五回目になる。一年に一回くらいを目標にした不定期だが、昨年は、私も仕事の忙しさやスタッフの入れ替わりもあって、結局できないままになった。一昨年に修学院離宮などに行ったのが最後だが、あれは昨年のことだったかなと思って調べたら間違いで、月日がたつのは早いものだとあらためて感じた次第。

毎回ここには書いているが、今回行ったのは、まず京都は島原の角屋(すみや)。冒頭の写真だが、説明によれば建物の種類としては「揚屋(あげや)」と言うそうで、今の料亭にあたるものだそうだ。続いて大阪府に戻り、高槻にあるプロテスタント教会を訪れ、最後は大阪市内の淀屋橋近くに建つ愛珠幼稚園というところだった。下は高槻の日吉台教会。

日吉台教会

角屋は江戸初期から移築、増築を繰り返した大型の町家。いわゆる和風の木造伝統建築で、淀屋橋の幼稚園は明治のものだが同じ様式で、やはり規模も大きい。ともに国の重要文化財の指定を受けている。高槻の教会は1970年ごろの建築で鉄筋コンクリート造。時代的には一応、幼稚園と教会は近代建築ということになる。下が幼稚園だが、三方道路で、角屋とそう大きさは変らないと思うが、長手側面が道路に面しているので、外観の巨大さが印象的。場所柄、大阪勤務の人なら知っている人も多いだろう。

愛珠幼稚園

それぞれに書きたいこと、書いておくべきことはあるのだが、50肩というのだろうか、しばらく前から左肩から二の腕にしびれたような痛みが走り、体調もいまいちで、ウォーキングも休んだまま。おいおいまた書いていこうと思うが、とりあえず今日は報告まで。


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キャッチャー・イン・ザ・ライ

また最近の読書について

この本は、日本では「ライ麦畑でつかまえて」という名前で有名だ。この題名はずっと覚えていたが、文庫本を買ったものの途中でやめたか、もしかすると買うこともなかったのかもしれない。これは村上春樹氏の訳。氏が訳したというので、そのうち読もうとは思っていて、先週、図書館に行ったときなぜかふと思い出して借りてきた。

他に読んでいる本もあったが、自宅で少しさわりを読んだら、そのまま最後まで読んでしまうことになった。でも、それはこの本がとても面白かったからではない。一気に読んだのでもなく、何となく気になって途中でやめられなくなり、読みかけのはおいて、読んでしまうことにしたのだった。

まあ読後感としては、正直言ってそんなに面白くはなかった。内容は高校生が退学になって寮を出て、自宅のあるニューヨークに戻ってきて数日、家に戻らぬまま街を放浪した時の記憶の断片。それを後に友人か誰かに話しているといった構成。

話しは、緩やかな起伏を繰り返しながら、あくまでも日常的な装いの中で進んでいく。でもよく考えてみるとけっこうショッキングな出来事がちりばめられていて、静かで淡々としているのが不思議な感じさえした。

ここまで書いてきて気がついたのは、きっとものすごく密度の高い時間がそこには流れているんだということ。だからけっこう大変な事件だって、日常的な出来事の一部のように見えてしまうんだろう。

人間の心理状況には常にこういうところがあるようにも思うが、高校生年代くらいの思春期のまっただ中の時間というのはやはり特別で、もはや自分はあまり覚えていないが、どこか圧倒的と言ってもいいような密度と深さを持ち、それが同時に未完成の裸形の感覚にさらされていたんだろうと思う。

でも、読んでいてだんだん気分が暗澹としてきて、どう終わるんだろうと心配したくらいだったが、最後はすばらしかった。やはりそんなに派手な演出はない。彼が家を出ようとして、その前にかわいがっている妹に会っておこうとしたときに、彼女がが自分も荷物を詰めたスーツケースを持ってついて行こうとする。事態の要点だけ書けばそれだけだが、まったく鮮やかな転換とクライマックスだった。淡々としているのも変らずだが、これには何とも救われるような感じがした。なかなかいい結末だったと思う。

追伸
高い評判や村上氏が訳すという本なのに、あまり面白いとも思えなかったので、自分にはあまり文学が分からないからかもしれないと心配になって、WEBで少し調べてみた。世界中で本当にたくさんの人が読んでいて、日本でも村上氏以外に1950、60年代に3つの訳書がある。

で考えたのは、もしかすると英文で読んだらもっと人気の秘密が分かるのかもしれないということだった。英語独特の言い回しや、発音など、また特別の味わいがきっとあるのだろうと思った次第。